隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
ハスハスする心臓を抑えて、あたしは図書館の窓から資料室がある第1棟に目をやる。
資料室は第1棟の左の隅にある。
みれば、その資料室の窓の奥には、向かい合って座っている待田先生とナポレオンの横顔がうかがえる。
……ほらね、腐女子だった頃のあたし。
なんにもやましいことなんかないんだよ。
あたしが愉悦を覚えるようなヤラシイことなんてないのよ。
生前は数々の浮気説があるナポレオンなんだし。
まさか男に襲われるなんてことはないわ。
あたしは安堵する。
きっと提出物が出せてないとか、だいたいそんなとこでしょ。
そんなことを考えながら窓を見つめていた。
しかし。
待田先生が急に立ち上がった。
そして窓のほうに身体を向けると、
ーーーシャッ、
と、カーテンを閉じる。
僅かに黒目を覗かせて、ふふん、と笑みを浮かべながら。
……な、なに?
なに、その「ふふん」は。
あたしの背中に悪寒が走る。
待田先生の綺麗な笑みにではない。
待田先生がカーテンを閉めたことに、だ。