隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー



「……タイユランか?」


ナポレオンの震えた声が、ドア越しに耳へと滑り込んできた。



「タレーランです、陛下」


待田先生の艶やかな声が訂正する。


陛下って、ナポレオンのこと……?

皇帝陛下、てきな?

というか、タレーランって誰?

待田先生のこと?

あの人、待田 蓮(れん)て名前のはずじゃなかったか?


あたしの頭の中に無数の疑問が一挙に浮かぶ。

ナポレオンの声は続ける。


「まさか、お前も我輩と同じように……」

「そのまさかです。
あなたがどのようにして日本人男児に生まれ変わったのかは存じませぬが……縁とは不思議なものですな」


我が輩と同じように?

生まれ変わった?


あたしの脳裏を、ふとある推測がよぎる。

待田先生は、皇帝もしくは将軍時代のナポレオンを知ってるんだ。

だから陛下って呼ぶんだろう。

ということは、おそらく待田先生とは……タレーランとかいう人の生まれ変わり。

いや、ナポレオンと同じってことは、転生なのか。

生前はナポレオンの側近かなにかだったのだろうということは、待田先生の口調からしてわかるけど。

さらに、不思議なことがもうひとつ。

曲がりなりにも生前は手下だった(かもしれない)人を目の前にしているのに、なんでナポレオンはこんなに怯えきった声を出してるんだろ?

あのお調子者のナポレオンのことだから、偉そうな態度をとるのかと思ったのに。




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