隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
そもそもナポレオンは妻帯してる、はずです
*
「……えーっと、つまり。
待田先生は、こんな教員生活エンジョイしてるけど、実は生前はナポレオンの側近(みたいな位置)だった、ってことですか?」
「だいたいそんなところだね」
優雅に顎をしゃくる待田先生だが、その実、これは優雅にうなづいたって解決にならない。
これ、大事件だね……。
前世の記憶がある、ってことさえかなり凄いのに、それがこの大学に2人もいる。
しかもなぜか、中世フランス時代の人。
いまいちできすぎていて腑に落ちないけれど、偶然の偶然の偶然、と思うしかない。
人に言ったところで、到底あたしの頭がいかれている、としか人は思わないだろう。
ここは黙っておくに越したことはない。
生前はあんな戦争やらかしたナポレオンだけど、いまのところは無害だし……。
あたしは隣の椅子に座って、やたらちらちらとあたしに目を配るナポレオンに一瞥をくれる。
というか、ナポレオン……さっきからずっとあたしを見てない?
襲われそうになった(かもしれない)ところをあたしに見られたからって、そんな気まずそうにしなくてもいいと思うんだが。
「おやおや……」
タレーラン、もとい待田先生は、すらりとした指を唇に当ててほくそ微笑んだ。
その“温かい目”ともいうべき視線を、ナポレオンに注いで、だ。
「やはりストライクゾーンでしたか。
そんなに気になるなら、私はこの場で去りましょうか、陛下?」
「ちがう」
ナポレオンは意味不明な待田先生の言葉を一刀両断して、待田先生を睨みつけた。
「我が輩は忘れてはおらんぞ。
お前が生前……」
「色と女を好んだのは認めますが、私は黒髪は好みではありませんから、安心なさいませ」
「うむ……“友人”がお前の手に堕ちたなど、我が輩は笑えぬからな」
「私はもっとこう、ミルクティー色の髪をセンターわけにした、青い瞳が美しいお人が好みでございますからね」
「うむ」
いや、うむじゃなく。
それって、もろナポレオンのことでは?
色素が薄くて自然な茶髪だし、センターわけだし、瞳が青いし。
それに待田先生、ナポレオンのことガン見してるし。