繋いだ手
「あの、何処へ?」
「とりあえず君の服を買いに行こう。その格好じゃ仕事の気分から抜け切れないでしょ?」
「あ……」

 思わず足が止まり、ショーウィンドウに映る自分を見つめた。ガラス越しに彼が映りこみ、二人で並べばバランスの悪さが浮き彫りになる。

「その格好の君も凄く素敵だよ? でも、今日は普段の君も見てみたいな」

 ガラス越しにそう言うと、彼がおもむろに彼女の手を取った。
 ガラスに映る二人の繋いだ手を見ると、なんだかこそばゆい感覚が体中を駆け巡る。大きな彼の手が彼女の手をすっぽりと包み込み、右手にしている小さな石のついた指輪を時折彼の指が撫でつけた。
 今起こっている出来事がにわかに信じ難い。彼女はガラスに映る自分たちの手をただ黙って見つめていると、彼の顔が耳元に近づいてくるのが見えた。
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