LAST SMILE



「帰るか」


「あ・・・うん・・・」




気付くと、
祐兎の手にはあたしのカバンがあって、


忘れたものを持ってきてくれたんだとわかった。



祐兎はカバンを持っていないほうの手で、
あたしの手を引いて歩き始めた。






街灯が少なくて、視界が暗い。



時折照らす街灯が眩しいくらい。



その街灯の光にさえ反射している
祐兎の金の髪を眺めながら歩く。



祐兎はまっすぐを見つめていた。



煙草を吸おうと、
ポケットから取り出した祐兎は、
はっとしたようにしまった。




「ねぇ、祐兎って、
 あたしの前で絶対に吸わないよね?
 遠くから見ることはあるけど」



「前にもいったろ。
 ボーカルの傍で喫煙なんて、ありえねぇだろ」





祐兎はちらっとあたしを見ていった。



あたしはさっきのキスが浮かんできて、
恥ずかしくなって目を逸らした。




こいつ、さっきのこと忘れた?




なんか、
何もなかったかのように冷静なんですけど。







「どうした?」


「べ、別に、なんでもない!!」


「なんだよ。変なやつ」





変なのはあんただよ。



好きじゃない相手だとしても、
キスしたら気まずくなるもんでしょ?



あたしは黙って俯く。


しばらくして、また祐兎のほうを見上げると、
祐兎がこっちを見つめていた。


視線がぱちっと合ってしまう。




「な、何?」



「や。べっつにー?何でもねぇ」




不思議と、前のようなムカつく感じはない。



ただ、仲のいい、
昔からの友達のような、そんな感覚。




それは多分、色んなことを知って、
いろんなことを吐き出したからなのかもしれない。





< 108 / 173 >

この作品をシェア

pagetop