LAST SMILE






歌を終えて、
あたしは静かに目を開けた。


目の前の遺影の祐兎は、
変わらずしかめっ面をしていた。


あたしは深呼吸をしてその遺影を見つめた。



「ねぇ、祐兎」


そしてあたしは話し始めた。

みんなが、静かに聞いてくれている。


しんと静まり返る中、
あたしの声だけが響く。


「あたし、最初あんたが屋上に来たとき、
 何こいつって思った」



そう。


すべての始まりはあの日、あの場所から。



金髪がやけに目立っていて、
煙草を吸っていたね。



あの時、あなたの大きな手に引かれて
あたしは、新しい道を歩き始めた。




「でも、初めてあんたのギターを聞いた時、
 ただの不良じゃないんだって思った」




跳ねるような、

走っているような、

そんな、前向きの音がした。



あのメンバーはみんな、
個性あふれる音をだしていた。


だからあたしは、あなたたちのバンドに
入りたいって思ったんだよ?




「初めて、あんたの悔しそうな姿を見たとき、
 あたしも一緒に胸が痛んだ」




歌えない。


でも、歌いたい。


歌いたいのに、歌えない。




その思いだけが、あなたの周りを駆け巡って、
あなたを苦しめた。


あたしも苦しかった。


苦しかったんだよ?




「初めてライブを一緒にして、
 あたしを仲間って言ってくれて」



学祭が2校続けてあったよね?


それが初ライブだった。



彩夏とぶつかったとき、
あなたはまっさきに庇ってくれたよね。


あれ、すごく嬉しかったよ。



「あれからあたし、色んなあんたを知って、
 色んなことを感じた」




あたしが取り乱したのが悪いのに、
申し訳ないと思ってくれた余所余所しいあなた。


あたしに謝りたいのに、
どうしようもなくて苛立つあなた。


あたしが誘拐されたとき、
必死で戦ってくれたあなた。



あの日、初めてあたしは




あなたの背中の温かさを知りました


あなたに病気があることを知りました。


あなたが悪ぶる本当の理由を知りました。


そして、初めてあなたのために、泣きました。






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