マーメイドの恋[完結]
「あああああ〜ん。うううう〜ん」
うめき声と思った声は、女の喘ぎ声だったのだ。
夏子は、自分が何を見ているのかわからずにいた。
いや、すぐにわかったのだけれど、たぶん1秒くらいの間が、完全に止まってしまったような感覚に陥ってしまったのだ。
次の瞬間、マサが虚ろな目で夏子の方を見た。
夏子は、マサと目が合うか合わないかのうちに、階段を駆け下りていた。
ー何なの。何なの。あれは何なのー
呪文や呪いの言葉のように、その言葉がずっと夏子の頭の中で繰り返されていく。
知らない街を走っているのを、これは夢なのかもしれないなどと思った。
つい先ほど、バスを降りたバス停まで走ってきた。
振り向かずに走ったが、そこで振り向いてみても、マサは追いかけてきてはいなかった。
どうして?理由はわからないが、マサに聞くつもりは少しもなかった。