マーメイドの恋[完結]
それでも人はまた人を愛す。
だが夏子は、もう人を好きになることなどないような気がした。
誰も信じられないし、信じたくもない。
誰もが、失恋したり裏切られたりという経験をしているのだと思うし、今の夏子と同じように、きっと誰も信じられなくなり、もう二度と人を愛することはないと思うのだろう。
それでもまた、時間が経てば人を好きになり、恋愛をして結婚をする。
それが人間の本能なのだろうか。
本能の赴くままに、また夏子も他の人を好きになり、何度も悲しい思いをするのだろうか。
何のために?
あんなことがあっても、足は勝手に新大阪駅へと向かい、夏子は新幹線に乗っていた。
頭の中は冷めているようにも感じた。
「夏子?夏子じゃなかね」
声の方を振り向くと、伊原がいた。
ー何故篤志さんが?ー
伊原がいても何の不思議でもない。
今、夏子がいる場所は、伊原のマンションのエントランス付近だったからだ。