マーメイドの恋[完結]

「夏子のために用意したんよ。ほら、こっちに来てみてん。海も見えるけん」


夏子は、伊原のいる窓の方に近づいた。


ーほんとに海が見えるわ。でも今の私には一番見たくないものだわー


「全部夏子のものやけんね。なんもかんも揃っとるけん、自由に使っていいとよ。足りないものは用意するばってん」


赤い冷蔵庫に、赤い炊飯器。
夏子の趣味ではなかった。
また適当な女を連れ込むために用意したマンションだったのだろう。
もう二度と伊原の言葉に騙されることはない。
それでも、騙されたふりをして、ここにいるのもいいのではないかと夏子は考えた。


「ありがとう篤志さん。仕事うまくいってるのね。すごい」


「そうなんよ。新しく始めた仕事がうまくいってね、すごく儲けたと」


「私、ほんとにここに来てもいいの?」


「当たり前やろ。夏子と俺の新居なんやけん」


夏子は、真新しいベッドの中で伊原に抱かれた。


「やっぱり夏子は最高やね。忘れられるわけがないよ」


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