マーメイドの恋[完結]
知らないと言うのは失礼かもしれないと思い、夏子は適当にそう答えた。
子供の頃、親や近所の人たちが「また伊原さんとこの息子が悪そしたとよ」などと言っていた。
どんな悪いことだったのかは覚えていないが、確かにカウンターにいる現在の伊原も、目つきが鋭くワルな感じが顔にも表れていると夏子は思った。
「俺はね、夏子ちゃんのいる銀行にたまに行ってたんだよ。まぁ、金なんかほとんどないんだけどね。ははは」
「そうなんですか。仕事に集中していてわかりませんでした。それに今は銀行にはいないんですよ」
「そうらしいね。モモから聞いたよ」
「あっ、すみません。私まだ何も注文してなかったですね。オススメ何かありますか」