マーメイドの恋[完結]
倉沢雅之の出現で
何時間かかるのかわからない。
しかし、そんなことはどうでも良かった。
今のモヤモヤとした気持ちを、歩くことで解消したかったのだ。
プップッー
夏子は駅を出て左に曲がり、そのまま歩道を歩いていると、1台の車がクラクションを鳴らした。
ーまさか篤志さん?ー
振り返って車を見るとベンツではない、国産車の軽自動車だった。
自分に鳴らしたのではなかったのだと思い、夏子は又歩き出した。
「あの、すみません」
クラクションを鳴らした男性が、車から降りてきたようだ。
道に迷ったのだろうか。
今は人と話をしたくない気分だったので、他の人に聞いて欲しいと夏子は思った。
「あの、いつも南木海岸で海を見ている方ですよね?」
ーあっ!この人、ボクサーみたいなあの人?ー
「はい。それが何か?」
夏子は、隙を見せたくなかったので、少し冷たく答えた。