マーメイドの恋[完結]
「名刺ありますか?」
ー変なことしたら訴えてやるわー
「名刺はありませんが、倉沢雅之と言います。あの海岸の近くの、潮見苑という老人ホームで介護士をしています」
「どこで話すんですか」
「良かったら食事でもしながら」
「食欲全然ないんです」
「じゃあ、南木海岸行きませんか?」
「わかりました」
夏子は渋々助手席に乗った。
こういうしっかりと断れないところが駄目なのかもしれない。
「俺のこと、あの海岸でみかけたことはないですか?よく会っていたんだけど」
「みかけましたよ。だから今回は車に乗りましたけど、普通なら乗りませんよ。ボクサーの方なのかと思ってました」
「あっ、知ってたんですか?嬉しいな〜。実はボクサーになりたくてボクシングジムに通っているんですが、この辺のジムからプロボクサーになるのは難しいんですよね」
「プロボクサーになることが夢?諦めたの?」