重奏 ‐アンサンブル‐
「懐かしい味…」


「懐かしい?」



ふと呟いた言葉が聞こえたらしい。



「えぇ…。私農家の出なので。よく母と作っていました。」


「農家?薬師の家系ではないのか?」



あれだけの知識がありながら、農家の出と聞いて驚く。



「はい。薬のことは師匠から教わりました。病で父も母も亡くした私を引き取ってくれたのが、師匠なんです。」



とても素晴らしい人で、今の私があるのは師匠のおかげなんです。と菖は嬉しそうに言う。



「今その人は…」


「師匠も数年前に。歳には勝てないと言っていました。」


「そうか。」



師匠が亡くなった後も師匠の意志を継ぎ、定住せず流れのまま薬師をしている。



「会ってみたかったな、その人に。」



薬のこと聞きたかった、と。

そしてなにより、菖を育てた人物に土方は会いたかった。



「そうですね。土方さんとなら話が合ったかもしれません。」



そう言う菖は凄く寂しい顔をしていた。
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