重奏 ‐アンサンブル‐
「ここから逃げ!裏山を抜けたらええ。」


「で、でも皆が…それに…」



―――師匠も……



「ここにいたらあかん。あたしらのことはええから。」



裏山へ通じる茂みにレイスを追いやる。



「生きて、菖ちゃん!」



―――『菖』


菖蒲の花言葉、優しい心にあやかって両親がつけたレイスの本当の名だ。


レイスはコードネームであるし、いつもは偽名を使う。

だが今回は、本名を名乗った。


オラシアのレイスでもなく、暗殺者でもなく、
不知火厳羊の弟子、不知火菖として成し遂げたかったからだ。



そして大きな声を出してしまった女将は、『菖』を茂みに押し込んだ直後隊士に見つかり殺された。



女将の言葉に押され裏山へ走り出す。


走って、走って、走って……


裏山を抜けても走り続けた。
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