重奏 ‐アンサンブル‐
「(もう、これ以上は……)」



鞍雀の言葉を表す様に、ドール達は無表情で目は虚ろ。

更には、攻撃にも一切衰えが見えず不気味極まりない。


しかし、新撰組の面々は疲労困憊、土方に至っては出血が止まらず辺りは血だらけだ。



「(!)」



自分の前にいる土方を見ると、いつの間に落ちたのだろうか。

懐に入れたはずの簪が足元にあった。


少し赤く染まっているが、美しい紫色を保っている。

その色に思い出されるのは、自分の心と花言葉。



「(いいよね、師匠……)」



師匠を、町の人達を思い返すその表情は、
『暗殺者 レイス』ではなく『薬師 菖』だった。



「(女将さん、ごめんなさい。貴女の最期の願い守れそうにありません。私は……)」



菖が懐から取り出したのは、古い短刀。

野草を採る為に師匠から貰ったもので、薬師としての始まり。



「(本当は命を奪う為の物じゃないけれど。)」



助ける為の物だけれど。



「(もう、偽りたくない…!)」



短刀を握り直し駆け出す菖の目には、強い光が宿っていた。

復讐を誓ったあの時とは真逆の光が。
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