先生がくれた「明日」
この春、私は晴れて県庁職員となった。

歩も今年から、中学生になる。


配属先は税務課。

なんだか少し身構えてしまうけれど、謙虚な姿勢で頑張りたい。

ひとつひとつ、仕事を覚えていきたい。



「新庄さん、何か分からないことある?」


「あ、これなんですけど、」



入庁したての私の指導係は、高井さんと言う。

先生の恋敵だった人と、同じ苗字だ。

最初は、笑いそうになってしまったけれど。

20代後半の彼は、私がどんなミスをしても、いつも優しい。



「そうだ、お洒落な喫茶店を見付けたんですよ。今度、新庄さん一緒にどうですか?」


「えっ!いいですね。」


「よし、じゃあ、今週末なんてどう?」


「はい!楽しみにしてます!」



歩も一人で何でもできるようになった。

だから最近では、週末に誘われて、彼と一緒に出掛けたりする。

激しい恋でも、切ない恋でもない。

でも、彼と一緒にいると、どこかほっとするんだ。


彼ともっと分かり合えたらいい。

今は素直に、そんなことを思う。

付き合うとか、結婚とか。

今はそんな気持ちにはなれないけど。

でも、ずっと先にはそんな、幸せな未来があってほしい。


それは、先生の願いでもあるから―――









ねえ、先生。




弟とふたり、この世界に投げ出された私を。


全力で救ってくれたのはあなたでした―――



先生、



先生がくれた"明日"を、


これからの私は、大事に大事に生きていきます―――





。**『先生がくれた"明日"』Fin.**°
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