先生がくれた「明日」
「お待たせ!」


「今来たところだよ。……じゃあ、いこっか、莉子さん。」



土曜日に、カフェの店員と待ち合わせた。

これが、あんな結末を呼び寄せるなんて知らずに―――


何往復かメールをやり取りして、彼は祥汰(しょうた)という名前だと分かった。

最初の印象は、はにかんだ笑顔が可愛らしい人、というくらい。



「祥汰くん、今日はどこにいくの?」


「映画観に行って、その後お茶しようと思って。莉子さんは、どこか行きたいところある?」


「ううん、それでいいよ。映画、私も観たい!」


「どんなのがいい?アクション系とか、絶対観ないと思うけど。」


「うん、アクション系は、そんなに観ないかなー。」



笑って答えるけれど。

まずは映画館自体、私は行ったことがない。

映画を観るための1,500円を稼ぐためには、2時間近く働かなくてはならないから。

それだけのお金があれば、一週間分の食費が賄える。



「莉子さんって、高校生?」


「そうだよ。」


「やっぱり。俺は大学2年。」


「私は高校2年。3歳も年上なんだね!」


「莉子のそのタメ口、可愛い。」



笑いながら、私の髪にさりげなく触れる彼。

いつの間にか呼び捨てになっている。

慣れてるんだ、と思う。

別に、そんなこと私にとって、どうでもいいことなのだけれど。



「彼氏、いる?」


「いたらデートなんてしないよ。」


「だって、そんなに可愛いのに彼氏がいない理由が分からないから。」


「褒めても何も出ないよ!」


「好きな人がいるとか。その人が、高嶺の花で、莉子にも落とせないとか。」


「そんなのありえない!」



無邪気な彼に、思わず笑ってしまう。



「好きな人も、付き合ってる人もいない。ほんとだよ。」


「そうなんだ。意外だなあ。」



その横顔を見上げて、ため息をつきそうになる。

こんな調子で、レシピにたどりつく日は来るのだろうか。

もしも本当に、彼が私のことを好きになってくれたとして。

その気持ちを利用するなんてことが、果たして私にできるんだろうか。

しても許されるのだろうか。



「映画館、ここだよ。」



その声と同時に右手を握られて、もう私は逃げることはできなかった。

何かが決定的に違うと、そう分かっていたのに。
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