先生がくれた「明日」
第3章 優しすぎる人
ひとつ屋根の下
朝起きると、お味噌汁のいい香りがした。
起き上がって、台所を覗く。
寝起きで霞んだ視界の向こうに、エプロンを掛けた先生が動き回っているのが見えた。
「先生、」
小さく口にして、その背中に近付いた。
すると、先生はふっと振り返って、私に笑顔を向ける。
よかった、何のこだわりもない笑顔だ。
私のこと、軽蔑していない何よりの証拠。
「なんだ新庄、もう起きたのか。朝飯ができたら起こしてやろうと思ったのに。」
「おいしそうな匂いがしたから、目が覚めちゃった。」
「そうか、それは悪いことをしたな。」
その言葉に、くくっと肩を震わせると、先生は包丁を持ちながらも、ほんの少し振り返って笑った。
「朝飯、食えそう?」
「うん。」
「ならよかった。……あ、お前が残したチャーハン、俺が食っちゃったからな。」
「えー?」
「いいじゃん、またごはん炊いたし。」
チャーハンを食べたら、私が昨日のことをくっきりと思い出してしまうから。
だから、まとめて食べてくれたんでしょう?
先生は、本当に優しい。
担任でもないのに、私のことを気にかけてくれる。
温かい家庭を知らない私に、それを教えてくれるみたいに。
今まで、怖くて融通の利かない先生だなんて思っていて、ごめんね、先生。
本当の先生は、こんなに繊細で、気配りができて、優しい人なのに。
その広い背中に、トン、と額をくっつけてみた。
先生の香りがする。
先生の、温かさが伝わってくる。
「甘えてんの?」
先生は、振り返らないまま少しだけ意地悪な声で言う。
「先生に甘えてどうするの。」
負けじと私も答える。
「甘えてもいいぞ。今日限定で許してやる。」
先生がそう言うから、私は先生のポロシャツの背中を、ぎゅっと両手で握ってみる。
ほんとはね、先生をハンカチ代わりにしてたんだ。
決して誰にも、涙を見せない代わりに。
「俺も、そういうときあるから。」
急に、ぽつりと先生が落とした一言が、妙に気になった。
だけど、先生はそれ以上、何も言わなかった―――
起き上がって、台所を覗く。
寝起きで霞んだ視界の向こうに、エプロンを掛けた先生が動き回っているのが見えた。
「先生、」
小さく口にして、その背中に近付いた。
すると、先生はふっと振り返って、私に笑顔を向ける。
よかった、何のこだわりもない笑顔だ。
私のこと、軽蔑していない何よりの証拠。
「なんだ新庄、もう起きたのか。朝飯ができたら起こしてやろうと思ったのに。」
「おいしそうな匂いがしたから、目が覚めちゃった。」
「そうか、それは悪いことをしたな。」
その言葉に、くくっと肩を震わせると、先生は包丁を持ちながらも、ほんの少し振り返って笑った。
「朝飯、食えそう?」
「うん。」
「ならよかった。……あ、お前が残したチャーハン、俺が食っちゃったからな。」
「えー?」
「いいじゃん、またごはん炊いたし。」
チャーハンを食べたら、私が昨日のことをくっきりと思い出してしまうから。
だから、まとめて食べてくれたんでしょう?
先生は、本当に優しい。
担任でもないのに、私のことを気にかけてくれる。
温かい家庭を知らない私に、それを教えてくれるみたいに。
今まで、怖くて融通の利かない先生だなんて思っていて、ごめんね、先生。
本当の先生は、こんなに繊細で、気配りができて、優しい人なのに。
その広い背中に、トン、と額をくっつけてみた。
先生の香りがする。
先生の、温かさが伝わってくる。
「甘えてんの?」
先生は、振り返らないまま少しだけ意地悪な声で言う。
「先生に甘えてどうするの。」
負けじと私も答える。
「甘えてもいいぞ。今日限定で許してやる。」
先生がそう言うから、私は先生のポロシャツの背中を、ぎゅっと両手で握ってみる。
ほんとはね、先生をハンカチ代わりにしてたんだ。
決して誰にも、涙を見せない代わりに。
「俺も、そういうときあるから。」
急に、ぽつりと先生が落とした一言が、妙に気になった。
だけど、先生はそれ以上、何も言わなかった―――