先生がくれた「明日」
「いただきます。」



眠そうに目を擦る歩と、先生と三人。

そろって手を合わせる。


こうしていると、ほんとの家族みたいだと思った。

どんなに孤独でも、ひとつ屋根の下、暮らせば。

人は、家族になれる―――



「莉子姉、昨日どうしたの?」



歩が、眠そうな声で言って、私ははっとした。

口を開こうとしたとき、代わりに先生が言う。



「莉子は昨日、バイトが長引いたんだって。」


「ふーん。」



先生が、初めて私のこと、莉子って呼んだ。

私に対して呼びかけたわけじゃないのは分かってるけど、それでもなんだか嬉しかった。



「なあ、歩、今日一緒に買い物に行こうか。」


「買い物?」


「ああ。午後から行こう?午前はちょっと、用事を済まさないとならないけど。」


「行く!」


「じゃあ、支度しとけよ。それと、これから2時間くらい一人で留守番できるか?」


「出来るよ!」


「ああ、偉いな歩。」



先生は、歩の頭をくしゃくしゃと撫でる。

歩は、嬉しそうに笑っている。



「莉子、行くぞ。」



先生は、突然立ち上がった。

今度は確かに私を莉子と呼んでくれたのが、何故だかすごく嬉しかった。

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