先生がくれた「明日」
チリンチリン。


前みたいにドアを押して、喫茶店に入る。

後ろから、守るように先生がついてくる。



「いらっしゃいませ。二名様ですか?」


「すみません。オーナーに用事があります。」


「オーナーに?分かりました。こちらへ。」



連れられて行ったのは、前に話したあの小部屋。

どうしてあのとき、私は頷いてしまったのだろう。

後悔してもしきれない。



「失礼します。オーナー、用事があるそうです。」


「ああ。入れろ。」



オーナーの声が聞こえた。

私は、緊張して部屋に入る。



「あー、莉子ちゃん!成果はあった?……って、誰?」


「どうも。新庄莉子の担任をしております、跡部と申します。」



担任?

先生、そんな嘘までついて―――



「担任?それはまた、どうして?」



オーナーは、いかにも不快そうな表情で、跡部先生を一瞥する。



「うちの学校ではバイトが禁止されておりまして。彼女を解雇してください。お願いします。」



頭を下げる先生。

私も、慌てて頭を下げた。



「ああ、そう。別にいいですけど。成果はなかったってことでいいのかな、莉子ちゃん。」


「成果はありました。でも……、報酬は要りません。」



私は、必死で口を開いた。



「は?どういうこと?」


「報酬は要らない代わりに、レシピは教えません。それで、いいですよね?」


「意味が分からない。」



隣で、先生がオーナーを睨むのが分かった。



「意味が分からない?分かってないのは自分の立場だろ。」



跡部先生が、今まで聞いたこともないような凄味の利いた声で言った。



「営業妨害でしょ。違いますか?それとも、証人を立てて法廷で闘いたい?」


「……ちっ。」



舌打ちをした坂井さんは、私たちを睨みかえした。



「早く失せろ。もう二度と、この店に入るんじゃない。」



私と先生は、足早にその店を後にした。


入口のドアを開けてほっとすると、足が震えているのに気付いた。

そんな私をかばうように、先生は並んで歩いてくれる。


先生がいなかったら、このバイトをやめることすらできなかったかもしれないと思うと、ぞっとした。
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