先生がくれた「明日」
第4章 哀しい目
特訓の始まり
次の日、学校で。
『2年3組の新庄莉子さん。至急、進路指導室まで。』
掃除が終わった後すぐに、そんな放送が入った。
跡部先生の声で、それだけ言ってぷっつり、と放送が切られる。
「莉子、何かしたの!?跡部先生に呼ばれるなんて!」
友達に、口々に心配される。
「何にもしてないよー!行ってくるね!」
「勇気あるなあ……。」
学校で跡部先生と話すのは、初めてかもしれない。
最近は先生の顔の跡部先生を忘れていたから、少し怖い。
「失礼しまーす!」
「お、新庄。ちょっとこっちへ。」
他の先生もいる進路指導室。
先生は、隣の進路資料室に私を連れて行った。
「なに?先生。」
「新庄、これから毎日ここに来い。」
「え?」
「この間言ったこと、俺、本気だから。」
この間言ったこと?
ああ。
「公務員試験のこと?」
「そうだ。いいか?勉強することは山ほどあるんだから。俺が要点を絞って教えてやる。」
「うん!」
「だてに法学部出身じゃないぞ!お前を必ず、県職員にする。それが……俺の最後の役目だ。」
最後の、というのが引っかかった。
まだ、卒業までには時間がある。
それなのに。
「お前は何にも分かってないだろう。県庁は毎年10人に一人しか受からないんだぞ。」
「えっ!」
「ほら、やっぱり知らないな。しかも第3次試験まである!」
「そんな……無理だよ、私には。」
「無理だろうな。……一人だったら。」
跡部先生は、にやり、と笑う。
「俺が保証する。お前を必ず受からせる。」
その自信は、どこからくるのだろう―――
「試験は6月に始まって、8月の終わりには結果が出る。」
「そんなに早いんだ。」
「ああ。それまで……、一緒に頑張ろう。」
そう言った時の先生の表情は、とても、とても切なくて。
私は、その横顔にはっと目を奪われた。
思わず胸がぎゅっと苦しくなるような、そんな顔だったから。
何なの?
先生に、そんな目をさせる何かは、一体何なの?
行き場のない疑問が、胸に渦巻いていた。
すると跡部先生は、追い打ちのように右手の小指を差し出した。
「な、約束してくれるだろ?俺のために、頑張るって。」
「……うん。約束するよ。」
そう言って、私も小指を差し出した。
先生は、私の小指にするりと指を絡めた。
俺のために、って言ったね。
先生が何か計り知れないものを抱えているかもしれない、ということは。
鈍感な私でも、さすがに気付いてしまった。
だけど、尋ねたところで話してくれるようなことではないことも、分かっていたんだ―――
『2年3組の新庄莉子さん。至急、進路指導室まで。』
掃除が終わった後すぐに、そんな放送が入った。
跡部先生の声で、それだけ言ってぷっつり、と放送が切られる。
「莉子、何かしたの!?跡部先生に呼ばれるなんて!」
友達に、口々に心配される。
「何にもしてないよー!行ってくるね!」
「勇気あるなあ……。」
学校で跡部先生と話すのは、初めてかもしれない。
最近は先生の顔の跡部先生を忘れていたから、少し怖い。
「失礼しまーす!」
「お、新庄。ちょっとこっちへ。」
他の先生もいる進路指導室。
先生は、隣の進路資料室に私を連れて行った。
「なに?先生。」
「新庄、これから毎日ここに来い。」
「え?」
「この間言ったこと、俺、本気だから。」
この間言ったこと?
ああ。
「公務員試験のこと?」
「そうだ。いいか?勉強することは山ほどあるんだから。俺が要点を絞って教えてやる。」
「うん!」
「だてに法学部出身じゃないぞ!お前を必ず、県職員にする。それが……俺の最後の役目だ。」
最後の、というのが引っかかった。
まだ、卒業までには時間がある。
それなのに。
「お前は何にも分かってないだろう。県庁は毎年10人に一人しか受からないんだぞ。」
「えっ!」
「ほら、やっぱり知らないな。しかも第3次試験まである!」
「そんな……無理だよ、私には。」
「無理だろうな。……一人だったら。」
跡部先生は、にやり、と笑う。
「俺が保証する。お前を必ず受からせる。」
その自信は、どこからくるのだろう―――
「試験は6月に始まって、8月の終わりには結果が出る。」
「そんなに早いんだ。」
「ああ。それまで……、一緒に頑張ろう。」
そう言った時の先生の表情は、とても、とても切なくて。
私は、その横顔にはっと目を奪われた。
思わず胸がぎゅっと苦しくなるような、そんな顔だったから。
何なの?
先生に、そんな目をさせる何かは、一体何なの?
行き場のない疑問が、胸に渦巻いていた。
すると跡部先生は、追い打ちのように右手の小指を差し出した。
「な、約束してくれるだろ?俺のために、頑張るって。」
「……うん。約束するよ。」
そう言って、私も小指を差し出した。
先生は、私の小指にするりと指を絡めた。
俺のために、って言ったね。
先生が何か計り知れないものを抱えているかもしれない、ということは。
鈍感な私でも、さすがに気付いてしまった。
だけど、尋ねたところで話してくれるようなことではないことも、分かっていたんだ―――