先生がくれた「明日」
2組の廊下に差し掛かったとき、ちょうど向こうから跡部先生が歩いてくるのが見えた。

先生、と声を掛けようとしたとき―――



「跡部せんせっ!!」



2組の教室から飛び出してきた一人の女の子が、先生の腕に両手でしがみついた。



「おう、佐倉。元気か?」


「はい、元気です!」



佐倉……。

この子が、知子の言っていた子だ。



「ね、先生。また来てくださいね!」



彼女はそう言って、先生の耳に顔を近づけて、何かを囁く。

すると、先生も笑顔になって、彼女の頭をぱしっとはたいた。



「常連になっちゃうだろ。」



その言葉に、佐倉さんは慌てたように先生の口を塞ぐ。

その手を払いのけて、また先生は笑う。



「内緒ですよ。」


「すまんすまん。」



怒ったように言う佐倉さんに謝りながら、可笑しそうに笑う先生。

その優しい笑顔に、私の胸はきゅうと痛くなる。

私はただ、そこに取り残されたように立ち尽くしていて―――



「ばか。」



思わずつぶやくと、二人が同時に振り返った。

その視線が耐えられなくて、くるりときびすを返す。



「おい、新庄。」



こぼれそうになる涙を、必死にせき止めながら走る。

分かってる。

全部私のわがままなんだってこと。

先生は、みんなの先生なんだから。

私だけに優しいわけじゃないってことを―――


だけど、苦しい。

苦しいよ、先生。

どうしてこんな気持ちになるのか、分からないけど、でも。


先生が、騙されていることに気付きもしないで、優しさを分け与えているのが嫌だよ。
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