先生がくれた「明日」
先生に連れられて来たのは、家からそれほど離れていないところにある小さな和菓子屋さんだった。

身内だけで営んでいるのが分かる。

先生は、私のことを無理矢理頼み込んでくれたのだろう。


お店ののれんをくぐる。

すると、優しそうなおばさんが迎えてくれた。



「こんにちは!」


「あらこんにちは!この子が莉子ちゃん?」


「ああ、そうだ。こいつが新庄莉子。元気だけはいいから、使ってやって。」


「よろしくおねがいします!」



深く頭を下げると、その人は先生によく似た笑顔を浮かべた。



「いいのよ、莉子ちゃん。そんなにかしこまらなくて。」


「そうだ、お前は何も気にすることはない。」


「あの、」



顔を上げて二人を見比べる。



「はは、こいつは俺の実の姉だ。婿をもらって、今は歩くらいの年の子どもがいる。」


「お姉さん!」


「そうよ。光春がいつもお世話になっているみたいで、ありがとね、莉子ちゃん。」


「そんな!とんでもないです!!」


「お前、慣れない敬語はやめた方がいいぞ!いつも、恐れ多くも俺にタメ口きくくせに。」



跡部先生が、意地悪な顔でちょっと笑いながら言う。

私は、どうしていいか分からなくなる。



「あらあら、教え子には随分高圧的なのね。」


「そうでもないぞ!なあ、莉子。」



跡部先生も、お姉さんには敵わないみたいだ。

その二人を見ていて、なんだか面白くて笑ってしまう。



「でも光春の言うとおり。敬語じゃなくていいのよ、莉子ちゃん。私のことは、歳の離れたお姉さんだと思って!」


「なっ、お前、歳離れすぎだろ!」


「うるさい、光春。」


「じゃあ先生は、私のお兄さんだ!」


「ばかっ!教師をばかにするのもいい加減に……」



先生と、そのお姉さんと私。

絶え間なく続く冗談に、私は笑いが止まらなくなる。


なんてあったかい家族なんだろう。

こんなに楽しい家族の愛に育まれて、跡部先生ができたんだね。


そう思ったら、なんだか跡部先生が、もっともっと素敵に思えた。
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