先生がくれた「明日」
随分長い時間、そうしていたような気がする。

気付けば私は、泣き止んでいた。

悪い夢を見ているみたいだった。

だけど、心のどこかは妙に冷静で、ひんやりと冷たかった。



「ねえ、先生。」


「ん?」


「お願いがあるの。」


「……なんだ。」


「私、先生のこと好きなんて言わないよ。言わないから、その代わりに……私を、温めてよ。」


「莉子……。」


「寒いの。ねえ、先生。もういいの。どうなってもいいの。歩、帰ってこないんだもん。」


「莉子、落ち着け。もしかしたら、歩だって、」


「帰ってなんて来るわけないよ。……せんせ、慰めてよ。それとも……、先生そんなに、私のこと嫌い?」



私の言葉に先生は、一瞬動揺した顔を見せた。

そして―――



「……こっちに……、おいで。莉子。」



私を呼び寄せる先生の声が、震えていた。

先生、先生なら絶対に、許してくれないと思ったよ。

こんなお願い、聞いてくれるような先生じゃないって、私は知ってる。


だけど、先生も。

その頃は普通じゃなかったんだよね。

きっともう、目には見えないところで始まっていた。

先生には、分かってたんでしょう?



お互いの悲しみをぶつけ合うように。

空っぽの部分を、満たし合うように。

私と先生は―――



愛し合った。
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