先生がくれた「明日」
試験が終わって、会場から出たところで。

壁に寄りかかっている先生と目が合った。



「先生!!!」


「おかえり。」


「どうしてこんなところにいるの?病院は?」


「大丈夫だって言っただろ。ただの偏頭痛だよ。」


「嘘だ……。」



先生はふっと笑うと、私の頭にふんわりと手を置いた。



「それで、どうだったの?」


「先生のことが気になりすぎて、覚えてないよ。」


「悪かったな、莉子。」


「だけど、大丈夫。……完璧。」


「そうか!それはよかった!」



先生は、満面の笑みを浮かべて私の髪をくしゃくしゃにした。



「やめてよ、先生。」


「愛おしいんだよ。ありがとう、莉子。」



先生の涙を含んだ声に、はっとした。

先生は、先生の夢を私に託したの?

愛おしいなんて、そんなこと―――



「二次試験と三次試験があるけど、一次を突破するところで大分人数は絞られる。ここからは、素直なお前を見せればきっと、きっと受かるぞ。」


「うん。絶対受かる。」



涙目の先生の、あまりにも切ない表情。

今朝の、苦しそうな先生。


すべてが、私の心を掻き乱す。


いなくなってしまいそう。

先生が、私の前から消えてしまいそう。



「先生、」


「なんだ、泣きそうな顔して。」


「いなくならないで。ずっと、そばにいてよ。」


「……そんなこと言うな。」



ごめんね、先生。

先生の切ない顔を見たいわけじゃなかったけど、それでも言わずにはいられなかったんだ。

先生に会ってから、弱くなってしまった私だから。



「一人で生きていけるように、背中押してんの。泣くな、莉子。」


「意味わかんない。先生のばか。」



傍から見たら、きっと。

生徒と教師以上の関係に見える私たち。

だけど、私は先生を好きになってはいけない。

そう、言われてしまったから。



「先生、内定が決まったら、どこか連れてって。」


「……ああ、いいぞ。どこがいい?」


「どこでもいい。遠くに行きたい。」


「約束する。」



先生が好きで、追いかけたくて仕方がなくて。

でも、先生はいつも逃げてしまうのに。

このときは、優しく笑ってくれたね。


何も知らないままで、このまま時が止まればいいのにって。

そう思うことしかできない私が、そこにいた。
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