先生がくれた「明日」
「かっこいいとこ見せられなかったから、次は金魚すくいだ!」


「ふふ、うん!」



先生は、真っ直ぐに金魚すくいの屋台に向かっていく。

人ごみの中に分け入って、先生は水の入った容器と薄い紙の張ってある道具を受け取る。



「よし、見てろー?」



先生は、紙を少し濡らした後で、猛然と金魚を狙い始めた。

ネコみたいで、なんだか面白い。



「よっしゃ!」



一匹。



「そーれ!」



2匹。

3匹、4匹、5匹……


次から次へと金魚をすくっていく先生。

先生にこんな特技があるなんて、知らなかったなあ。

冗談だって思ってたのに。


テンポよく掬っていく先生に、だんだん見物人も増え始めた。

私と先生の周りに、大勢の人だかりができて。

みんな、一匹救うたびに歓声を上げて喜んでいる。



「18!」


「19!」


「20!」



誰からともなく声が上がって、みんなで声を合わせて数えはじめる。

知らない人たちの声が、温かく先生を包んでいて。

先生は、嬉しそうに笑っていて。


みんなの人気者。

キラキラしてる先生。


なんて、なんて素敵なんだろう―――



「26!ああーっ!!!」



ちょうど26匹目を掬ったときに、紙が破れてしまった。

でも、どこからともなく拍手が沸き起こって、先生と、その隣の私は大きな拍手に包まれた。

先生は、振り返って、笑顔で応えている。

スターになったみたい。



「な?かっこいいだろ?」


「うん。」



キラキラしてる先生の隣にいられて、私も誇らしい。

嬉しいよ、先生。



金魚は結局、全部返してしまったけれど。

一生消えることのない、楽しい思い出が私の心のなかに、またひとつ増えた。
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