先生がくれた「明日」
飲み物など、他にも買って。

そのまま先生と、河川敷を目指す。

あんまり楽しくて、もったいない―――



河川敷には石段があって。

そこに、先生と並んで腰かけた。



「さてと、ちょっと冷めたけどたこ焼き食うか。」


「うん。」



先生と一緒に、たこ焼きをつつく。

もう空は真っ暗で、設置されたライトの光だけが頼りだ。

そんな薄暗い夏の夜。

先生が、隣にいるなんて。



「うまいな。」


「うん、おいしい。」



消えてしまうんじゃないよね。

ねえ、先生。

違うって言ってよ。


幸せな記憶だけを私に残して、行ってしまうなんて言わないで。



「そろそろ、かな。」



7時になった瞬間。

パーン、と音がして、一発目の花火が打ち上がった。



「わああ!!!」


「おー!!!」



綺麗。

こんなに近くで見たのは初めてだから、その迫力に圧倒されてしまう。


次から次へと、夜空に上がる花火。

夜空がキャンバスになって、大輪の花が浮き上がる。


好きな人の隣で、こんなふうに花火を見上げるなんてこと。

一年前の私は、想像もしていなかった。

日々を生きていくのに精いっぱいで。

少し先のことすら、考えることはできなかった。


先生に、もしも会えていなかったら。

私はこれからもずっと、ただその日のことしか考えずに、生きていったんだろう。

歩を奪われて、ひとりぼっちになって。

自分のためだけに生きていったんだろう。


先生がくれたんだ。

私の今も、未来も。

誰かを想い、生きていくことの素晴らしさに気付かせてくれた。



「きれい。」


「何で泣いてんだよ。」



気付けば頬を伝っていた涙を。

先生が、指先で拭った。



「泣いてないよ。」


「……そう。」



笑顔だけを見せるって、誓ったから。

私は、笑ってるでしょう?


この涙は、幸せだから流れるの。

嬉しいから、楽しいから流れるの。

切なくてたまらないのは、先生が好きだからだよ―――



先生が、私の左手をぎゅっと握った。

私も、その手を握り返す。


ずっと、この手を離したくない。

先生を、ずっとずっと、繋ぎ止めておきたいよ。

この手で―――


それは叶わないことだと、心のどこかで勘付いていたけれど。
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