先生がくれた「明日」
「ただいま!」
「お帰り、歩。」
「莉子姉、今度野球の試合、見に来てくれない?」
「え、いつ?」
「今週の日曜日!」
「いいよ。じゃあ、バイト先に休みますって連絡するね。」
「ありがと、お姉ちゃん。」
歩は、爽やかに笑う。
あれ、と思う。
なんだか、今までと違う。
私に甘えてばかりいたころの歩とは、何かが違う気がした。
そして、迎えた日曜日。
私は、日焼け対策をして大きな野球場のある近くの競技場に向かった。
でも、よく考えると何かがおかしい。
歩は確かに野球が好きだけれど、野球クラブの月謝なんて払えないから、チームには所属していないはずだった。
ユニフォームだってないはずなのに。
どうして、ここで試合ができるんだろう。
訝しく思いながらも、球場の応援席に腰を下ろす。
グラウンドでは、ユニフォームを着た小さな選手たちが、素振りをしている。
「歩?」
その中に紛れるようにして、小柄な歩がバットを振っていた。
ちゃんとユニフォームも着ている。
どうして?
一体何が起こったと言うのだろう。
その時、近くに座るお母さんたちの話が耳に入ってきた。
「見て、あれが歩くんよ。」
「思ったより小柄なのねー。」
「偉いわよねえ、歩くん。」
「そうよ、監督が歩くんを気に入って、月謝はいらないからってチームに引き込んだそうじゃない。」
「高校生のお姉さんと一緒に暮らしてるんでしょ?」
「そうそう!大変なのに、頑張ってるわよね。」
「うちの子なんて、歩くんに憧れて野球始めたのよ。彼、学校で大人気なんだって。」
それを聞いて、涙が出そうになった。
歩、そんなこと一言も言わなかった。
それで、いきなり試合に私を呼んだりして。
最近ずっと沈んでた私を、驚かせて元気づけようとしてるの?
そのとき、試合開始の合図があって。
両チームの選手たちが、帽子を脱いで挨拶をし合った。
小学生なのに、大人みたいな振舞いだ。
そして、始まった試合。
守備でも攻撃でも、歩は大活躍だった。
小柄な体を生かして、歩はグラウンドを駆け回る。
一度つかんだボールは、決して離さなかった。
ヒットも打って、チームに貢献して。
すごいよ、歩。
ほんとにすごい。
歩みたいな弟を持って、私は幸せだよ。
試合中、私はずっと涙をこらえていた。
泣いたら、歩に失礼な気がして。
涙の代わりに、ずっとずっと、歩だけを見つめていた。
試合の結果なんてどうでもよくて。
ただ、小柄なのに大きな歩の背中を、じっと見ていたんだ―――
「お帰り、歩。」
「莉子姉、今度野球の試合、見に来てくれない?」
「え、いつ?」
「今週の日曜日!」
「いいよ。じゃあ、バイト先に休みますって連絡するね。」
「ありがと、お姉ちゃん。」
歩は、爽やかに笑う。
あれ、と思う。
なんだか、今までと違う。
私に甘えてばかりいたころの歩とは、何かが違う気がした。
そして、迎えた日曜日。
私は、日焼け対策をして大きな野球場のある近くの競技場に向かった。
でも、よく考えると何かがおかしい。
歩は確かに野球が好きだけれど、野球クラブの月謝なんて払えないから、チームには所属していないはずだった。
ユニフォームだってないはずなのに。
どうして、ここで試合ができるんだろう。
訝しく思いながらも、球場の応援席に腰を下ろす。
グラウンドでは、ユニフォームを着た小さな選手たちが、素振りをしている。
「歩?」
その中に紛れるようにして、小柄な歩がバットを振っていた。
ちゃんとユニフォームも着ている。
どうして?
一体何が起こったと言うのだろう。
その時、近くに座るお母さんたちの話が耳に入ってきた。
「見て、あれが歩くんよ。」
「思ったより小柄なのねー。」
「偉いわよねえ、歩くん。」
「そうよ、監督が歩くんを気に入って、月謝はいらないからってチームに引き込んだそうじゃない。」
「高校生のお姉さんと一緒に暮らしてるんでしょ?」
「そうそう!大変なのに、頑張ってるわよね。」
「うちの子なんて、歩くんに憧れて野球始めたのよ。彼、学校で大人気なんだって。」
それを聞いて、涙が出そうになった。
歩、そんなこと一言も言わなかった。
それで、いきなり試合に私を呼んだりして。
最近ずっと沈んでた私を、驚かせて元気づけようとしてるの?
そのとき、試合開始の合図があって。
両チームの選手たちが、帽子を脱いで挨拶をし合った。
小学生なのに、大人みたいな振舞いだ。
そして、始まった試合。
守備でも攻撃でも、歩は大活躍だった。
小柄な体を生かして、歩はグラウンドを駆け回る。
一度つかんだボールは、決して離さなかった。
ヒットも打って、チームに貢献して。
すごいよ、歩。
ほんとにすごい。
歩みたいな弟を持って、私は幸せだよ。
試合中、私はずっと涙をこらえていた。
泣いたら、歩に失礼な気がして。
涙の代わりに、ずっとずっと、歩だけを見つめていた。
試合の結果なんてどうでもよくて。
ただ、小柄なのに大きな歩の背中を、じっと見ていたんだ―――