先生がくれた「明日」

本当のさよなら

そして、卒業が近づいたある日のこと。

私は、悲しい知らせを聞いた。



「みなさんの生徒指導の先生としてお世話になった、跡部光春先生ですが……昨日の夜、脳腫瘍のためお亡くなりになりました。」



担任の先生の言葉が、耳を素通りしていく。

私は無言のまま、じっと空を見つめていた。


旅行先の空と同じ。

雲一つないブルーだった。



私は、知っていた。

先生がこうして、消えてしまうことを知っていた。

私たちの目の前から、永遠に―――



「告別式は、今日の午後―――――」



私は、もう何も考えられなくなって。

教室を飛び出した。


嘘だ。

全部嘘。


私は、ずっとずっと。

自分の気持ちを押し殺してきた。


だけど先生。

本当は、ほんとうは―――


先生のそばにいたかった。

ずっと、そばにいたかった。

死んでしまうなら、尚更。

あなたのそばで、あなたとともに、涙を流したかった。

あなたの最後に、その手を握っていてあげたかった。

ずっと愛していると、言ってあげたかったのに……。



泣きながら、目指したのは。

バイト先。

先生の、お姉さんのところだ。



「莉子ちゃん、学校は、」


「お姉さん。」



零れる涙を、拭うこともしないで。

お姉さんを見つめる。

すると、お姉さんも泣き出して。

一緒に、手を握り合って泣いた。


分かってる。

お姉さんも苦しかったんだよね。

私に何も教えないようにして、気丈に振舞っていた。


私だけじゃない。

先生だけじゃない。

先生を愛するすべての人が、先生のために涙を流した。



「莉子ちゃん、ごめんね。勘忍ね。」


「……ううん。」



ひとしきり泣いた後。

お姉さんは、私に手紙と鍵を渡してくれた。



「ごめんね、光春、何かを仕組んだみたいで。この鍵で光春のマンションの部屋に入って、何かを探せって。」


「え?」


「なんか、ポストから始まる、とか言ってたっけ。」


「はあ……。」


「光春の、最後のいたずらだと思って、付き合ってやってね。」



先生、何を―――



「それから、その手紙は、何かを見付けた後に読めって。」


「え?」


「絶対に、先に読んじゃ駄目だって。」



笑いを含んだ涙声で、お姉さんが言った。



「ほんとに、馬鹿よねえ、光春は。……入院する最後の最後まで、そんなこと確認してて。」


「先生……。」



一人で、どんなに切なかっただろう。

それでも先生は、私のことを考えてくれたんだね。

ずっと、ずっと―――



「行ってくるね。先生の残してくれた、何かを探しに。」


「うん。何があったか、後でこっそり教えてね。」


「うん。」



そして、私は一目散に、先生のマンションに向かったんだ。
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