先生がくれた「明日」

先生がくれた「明日」

先生のマンションに着いた。

言葉通りポストを覗くと―――



『莉子へ

 今から指示する場所を探してみて。

 俺が君に伝えたいこと、自分で探してほしいんだ。

 最初は、「本棚」です。

 じゃあ、頑張って!

 みっちゃんより』



先生の字を見るだけで、泣きそうになってしまう。

何やってるの、先生。

人生の最後に、こんなことしてる暇ないでしょ。


鍵で、先生の部屋のドアを開ける。

今にも、先生が迎えてくれそうで。

でも、誰もいなくて。

私は、心の底から寂しくなる。



まずは、本棚。

本棚を探すと、端の方に紙が挟んである。

こんなんじゃ、簡単だよ。

すぐ見付けちゃう―――



『ここにある本の、128ページ。』



え、ええっ!

本棚には、ざっと見ても100冊は本がある。

この本を、全部見ろってこと?


いきなりの無理難題に、先生を睨みたくなる。

だけど、もうそれさえもできないんだね―――


私は、端から本の128ページを開き続けた。


すると、80冊くらい捲った時。



「あ、」



ひら、と紙切れが落ちた。



『お疲れ。次は台所!』



台所?

今の私の努力は!

先生って、こんなに人を振り回す人だっけ。

少し、呆れてしまう。



台所に行くと、水道の蛇口にテープで紙が付けてあった。



『食器の下』



すぐ横にある食器棚には、それなりの数の食器が並んでいる。

ひどい、先生。


先生の使っていたであろうお皿やコップ。

一つひとつをそっと持ち上げて、紙を探す。



「あ!」


『今度は、テーブル。』



テーブル?

居間に戻れってこと?


テーブルの上にはない。

テーブルクロスの下にもない。

見付けられなかったら、先生の伝えたかったことは分からずじまいなのだろうか。

少し焦って、テーブルの下を覗き込む。



「あった!」



ありました。

テーブルの脚。

内側に、またもやテープで張り付けてある。



『よく見つけられたな!次は、クローゼット。』



言われるままに、クローゼットを探す。

その扉に、


『俺のいつも着てたスーツのポケット。分かるか?』


というメモ。


分からないわけないじゃん。

先生のスーツ、忘れるはずないよ。


何着かあるスーツのうち、いつも着ていたものを一発で選び出して、そのポケットを探る。



「あった!」


『ご名答。よく覚えてるな、お前。

 次は、トイレだ。』


「トイレ?」



なんだか、先生と会話をしているみたい。

いつの間にか、私の頬は涙で濡れていた。

久しぶりに、先生の存在を感じることができて、嬉しかったから。


まだ、終わらないでほしい。

先生との触れ合いが、もう少し続いてほしい。

先生の心に、まだ触れていたいよ―――
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