先生がくれた「明日」
手紙を読んで、私は床に泣き伏した。

こんなに、こんなに思われていたなんて。

もっと早く、気付くべきだった。

ごめんね、ごめんね先生。


先生は、私の幸せを願うあまりに、大事な気持ちさえもどこかに押し込めてしまったんだね。

どんなに、どんなに苦しかっただろう。

その胸の内を想像するだけで、息苦しくなる。

長い、長い闘いだったんだね。

いつ発病するかわからない恐怖と、不安の中で。

それでも先生は、私を愛してくれた。

言えなかった苦しみを、分かってあげられなくてごめん。


だけど、私の唯一の救いは―――


ちゃんと言えたことだよ。

先生に、好きだよって。

何度も、言えたことだよ。

言わないままだったら、きっと、もっともっと後悔したと思うんだ。


私も、先生とこれからを生きていきたかった。

明日には、先生がいるのが当たり前だと思ってた。


先生がくれた「明日」には先生はいない。

それなのに、私は、幸せにならなくちゃいけないんだ。



「先生、」



誰もいない部屋の中で、私はつぶやいた。

今なら、先生がそばにいる気がしたから。



「先生に会えて、幸せだったよ。悲しいより、切ないより、幸せだったよ――――」



ぐっと手を握る。

ここからは、泣いている場合ではない。

もう十分泣いたから。


先生の文字で書かれた「明日」を眺める。

そう、私には明日があるんだから。


前を向いて、生きていくよ。



「ありがとう、先生。」



私の震える声が、先生の部屋に響いた。

今にも、後ろから先生が現れそうで。

でもそんなの、単なる幻想でしかない。


もう、先生に甘えてはいられない。

ここから先は、自分で明日を掴むんだ。


大丈夫。


先生はいつも、心の中に生きているから―――



「大好きだよ、先生。」



私は、先生に聞こえるように、何度も何度もつぶやいた。
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