過ちの契る向こうに咲く花は
 私の色素がうすいのは、たぶんその祖母がイギリス人だからだったのだろう。伊堂寺さんのおじいさまは祖母に恋心を抱いていたらしい。それがきっかけ。
 ただ祖母は留学生、伊堂寺さんのおじいさまは代々続く家の跡取り。結婚どころか恋仲になることもなく、各々別のひとと結婚した。
 そして十数年後、伊堂寺さんのお父上が友人を家へ招く。それが私の父。もちろん互いに両親が知人であったことは知らない。
 でも、それに気づいた伊堂寺さんのおじいさまは、懐かしさゆえか、若き日の淡い想いゆえか、苦学生だった父の面倒を見始めたらしい。それはやがて、結婚相手にまで及ぶ。
 それを父が断った。母がいたからだ。ただ母は、伊堂寺さんのお父さんはことばを選んでくれていたけれど、父より年上で、学もなくて、あんまりいい仕事をしていなかったのだろう。伊堂寺さんのおじいさまがそれを許せるわけもなく、父は追い出されたらしい。

「お父上は、たぶん相当内容やことばを吟味してくださったのだと思います。謝罪も、ありました」

 あのときは父に逆らえなかった。本当に申し訳なく思っている。
 そう言う伊堂寺さんのお父さんの顔は確かに申し訳なさそうだった。大企業の社長ならそういう演技もできるのかもしれないが、本心だと思いたかった。

 父は、母と共に暮らしていくために必死に働いていたそうだ。伊堂寺さんのお父さんは時折様子を見に行ったものの、父の詫びと自分からと差し出したものは一切受け取らなかったということだった。
 それもあっという間に終わる。父は事故で死んだらしい。母と入籍する直前に。

 会ったことどころか顔も知らない父親の死に、私はどう向き合ったらいいのかわからなかった。想像しなかったことではない。一生会うこともないのだろうな、と思って生きてきたのが事実だ。
 それでもやはり多少の衝撃はあったし、やっぱり、という諦めにも似た悲しい気持ちもあった。これが酒やギャンブルに溺れたくだらない男だったら、きっと違ったのだろう。

 そこからはまた、伊堂寺さんのお父さんの謝罪が続いた。おじいさまもそれを知って相当後悔したらしい。自分は憧れた女性と共になれなかったさみしさを知っているのに、なにをさせようとしていたのかと。
 そして母に申し出た。面倒をみさせてくれと。
 
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