過ちの契る向こうに咲く花は
「私はもちろん、そんなこと知りませんでした。それを今日、両親のことを伊堂寺さんのお父上から、婚約に関することを伊堂寺さんから聞きました」
伊堂寺さんのお父さんは、ただ素直に会いたかっただけだと言っていた。息子から話を聞いて、めぐりあわせのような運命ならばやはりきちんとしたいと思ったと。
びっくりした。と同時にとてつもない寂しさや悲しみを感じた。突然なにか大切なものを根こそぎ持って行かれるような気持ちになった。
相談でもなんでもなく、自分語りのようになってしまったな、とため息をつく。
「やっぱり、いいように利用されてるんだけだったんですよね」
わかりきっていたことだ。最終的にギブアンドテイクになるようにルールを決めてふたりの関係はできあがった。
じゃあ一体、なんでこんなにもやもやしてしまうのだろう。
割り切って、互いにメリットがある関係、それでいいしできるだけ他は関わらないでおこうと思っていたのに。
「そうだね、そうかもね」
食べかけの焼き鳥を下ろして、鳴海さんはあっさりと認めてくれた。
ほんとう、拍子抜けする。
「巽のことだから、より自分にメリットがあるほうを選択するんだと思うよ。俺は相談もされないし聞いてもいないけれど、葵ちゃんのことを調べたうえで婚約者として偽装でも据えたってことは、そのほうがいいと判断したからだろう」
清々しいぐらいのことば。否定されたかったのか、と問われればイエスとも言いたくなるけれど、そんなの、このひとには期待するほうが間違っている。
ということは、私もしっかりわかってるんだ。
ビールをひとくち飲む。ビールって美味しいのか否かはずっとわからなかった。もちろん今もわからない。とりあえずアルコールが必要なタイプでもなかったから、量もたくさん飲まない。
ただ今はちょっとだけ、救われる気がした。冷たさと苦さに。
「でもさ、俺は思うんだけど」
ふたたび焼き鳥を口にいれて飲み込んでから、鳴海さんがその櫛を振る。
「それって、単なるきっかけでしょう」
金目鯛の煮付けを持ってきてくれた女将さんが「行儀が悪いよ誠ちゃん」とたしなめてゆく。
「きっかけ、ですか」
大皿に盛られたその煮付けが、とてもおいしそうな香りを立ち昇らせていて、ちょっとずつ食欲が出てきた気がした。
伊堂寺さんのお父さんは、ただ素直に会いたかっただけだと言っていた。息子から話を聞いて、めぐりあわせのような運命ならばやはりきちんとしたいと思ったと。
びっくりした。と同時にとてつもない寂しさや悲しみを感じた。突然なにか大切なものを根こそぎ持って行かれるような気持ちになった。
相談でもなんでもなく、自分語りのようになってしまったな、とため息をつく。
「やっぱり、いいように利用されてるんだけだったんですよね」
わかりきっていたことだ。最終的にギブアンドテイクになるようにルールを決めてふたりの関係はできあがった。
じゃあ一体、なんでこんなにもやもやしてしまうのだろう。
割り切って、互いにメリットがある関係、それでいいしできるだけ他は関わらないでおこうと思っていたのに。
「そうだね、そうかもね」
食べかけの焼き鳥を下ろして、鳴海さんはあっさりと認めてくれた。
ほんとう、拍子抜けする。
「巽のことだから、より自分にメリットがあるほうを選択するんだと思うよ。俺は相談もされないし聞いてもいないけれど、葵ちゃんのことを調べたうえで婚約者として偽装でも据えたってことは、そのほうがいいと判断したからだろう」
清々しいぐらいのことば。否定されたかったのか、と問われればイエスとも言いたくなるけれど、そんなの、このひとには期待するほうが間違っている。
ということは、私もしっかりわかってるんだ。
ビールをひとくち飲む。ビールって美味しいのか否かはずっとわからなかった。もちろん今もわからない。とりあえずアルコールが必要なタイプでもなかったから、量もたくさん飲まない。
ただ今はちょっとだけ、救われる気がした。冷たさと苦さに。
「でもさ、俺は思うんだけど」
ふたたび焼き鳥を口にいれて飲み込んでから、鳴海さんがその櫛を振る。
「それって、単なるきっかけでしょう」
金目鯛の煮付けを持ってきてくれた女将さんが「行儀が悪いよ誠ちゃん」とたしなめてゆく。
「きっかけ、ですか」
大皿に盛られたその煮付けが、とてもおいしそうな香りを立ち昇らせていて、ちょっとずつ食欲が出てきた気がした。