過ちの契る向こうに咲く花は
 自分でも不思議だった。どうしてあんな態度をとったのか。
 いくら仲良くする気はないといえど、それでも無関係の人間ではない。仕事もそうだし、期間限定とはいえ、同じ場所で寝食を共にする。
 いけないなぁと反省しつつも、フォローに回れそうにはなかった。ため息をつきつつ、食器を洗う。
 冷蔵庫に残ったケーキを食べれる気がしなくて、でも捨てるのはもったいなくて、キッチンで立ったままかきこんだ。
 味のしないケーキなんて、初めてだった。

 そのまま、顔を合わせないでお風呂に入り、寝室へと戻る。
 その間も考えないようにしなきゃ、という意思で頭の中がいっぱいだった。もちろん、無駄に終わるのだけれど。
 シャワーを浴びながらも、洗面台の前で眼鏡をかけながらも、常に頭の中にリピートされる。
「せめて顔だけでも良かったらいいのに」
 どれだけ、囚われているのだろう。情けないのだろう。

 どっと疲れた身体をベッドに乗せ、持ってきた小さな鏡の前で、眼鏡のない自分の顔を見る。

 妬むと、心が荒んで不細工になるから、それだけはやめなさい。

 ほんとうだな、と心の底から思わずにはいられなかった。
 鏡の中の自分が、とても醜く見えた。
 そしてつまり、それは今の私が野崎すみれを妬んでいる、という証拠だった。

 乗り越えきてきた、と信じていた自分の中身。
 どうやらそれは、勘違いだったらしい。
 こんなにも美醜に囚われている自分が、本当に情けなくて、恥ずかしい。
 
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