過ちの契る向こうに咲く花は
 久しぶりの夢を見た。

 中学の頃だ。私は演劇部に所属していた。その部活はけして活発でも有名でもなかったけれど、人数もある程度いたしみな楽しんでやっていたと思う。
 私も、女優になりたいという夢こそなかったものの、演技する楽しさというものを知って積極的に練習に参加していた。小さな役をもらっては、家に帰っても練習を繰り返して努力をしていたと、自分でも思う。
 それぐらい、楽しかったのだ。部活動というものが。みなでひとつの作品を作るということが。

 それが、一部から浮いていたと気づかないぐらい。

 知ったのは、二年の文化祭のとき。演目はベタにロミオとジュリエット。毎年、文化祭は誰もが知っていて定番の舞台をやるという伝統がなんとなくあったのだ。
 そして同じ伝統として、ヒロインはヒーローから選ばれる、というものも。

 三年の女子部員は裏方しかいなかった。そのひとは表舞台にでることは好きじゃなく、小道具や照明のほうが好きだった。だから必然と二年生からヒロインは選ばれる。

 私だった。先輩は、頑張ってるから、という理由で私を選んでくれた。
 もちろん嬉しかった。今までは端役だったのに、ヒロインを演じることができる。台詞の量も、演技も増える。もっと練習してしっかりやらなければ。そう思って舞い上がっていた。
 それが、同級生たちの反感を買った。

 嫌がらせ、というものは目立ってなかった。表面上は私を応援してくれたし、普段も気さくに話してくれた。だから私も気づかなかった。演じることに夢中で、ちっとも周りの空気を読めなかった。

「下手なくせにね。自分のことわかってないんだろうなぁ」
 それは、文化祭も近づいたある日の放課後。
「美人って得だよね」
「ほんと。でもなにがムカつくって、私はそれを鼻にかけてません、って顔してるとこ」
「ああ、わかるわかる! よくある少女漫画のヒロインみたいな。誰もがうらやむ美少女なのに本人無自覚ってやつ」
 部室に向かう途中、忘れものに気づいて戻った教室から聞こえてきた会話。
「そのくせにちょっとちやほやされて、舞い上がっちゃって。恥ずかしいの気づいてないのかな」
 演劇部のメンバーとクラスメイトたちだった。
 笑い声が廊下に響いていた。外から聞こえてくる野球部の声が、一気に遠ざかった。

「顔だけのくせに。勘違いも度を過ぎると笑えるよね」
 それが全ての始まり。
 
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