過ちの契る向こうに咲く花は
「じゃあこの再会を機会に、ってことは?」
 若干野卑た笑みを浮かべて角田さんがビールを飲む。
 まだ酔うには早いだろうに。冗談だし悪気はないとわかっているけれど、大袈裟にため息をついてみせる。
「なに言ってるんですか、角田さん。伊堂寺さんの立場を考えてあげてください」
 私みたいなのじゃ不釣り合いでしょう。
 そう笑いながら言うと同時に、再び伊堂寺さんのほうを伺う。でもこれは私の意思じゃなくって、角田さんと水原さんが彼に視線を向けたからだ。たぶん、伊堂寺さんはどうなの? といった感じに。

 ボスと黛さんと話していた伊堂寺さんは、向けられた視線にちょっとだけ笑った。
 だけどその一瞬前、私と目が合ったような気がした。いや、たぶん合った。というか若干睨まれたような気がしてならない。
「女性のほうからお断りされるのは、さすがにちょっと悲しいですね」
 そう穏やかに伊堂寺さんが言って、角田さんたちから笑い声が上がる。やっぱり見た目がいいとそんなこと言っても嫌味じゃないね、なんて言われている。

 睨まれたのはなんだったのだろう。そう思えど、ここで突っ込めるわけもなく、私も周りに調子をあわせておくしかない。
「伊堂寺さんはそうやって女性を口説いてきたんですね」
 私がそう言うと、また若干睨まれた。他のひとには気づかれてないみたいだけれど、さすがにこれは空気を読んで欲しいと思ってしまう。けして本気で言っているわけではないのに。

「でも野崎は、きっと攻略難しいよな」
 伊堂寺さんのちらちら見える態度にため息をつきたくなっていると、不意に水原さんの視線がこっちに向いた。
「ああ、わかるわかる。軽さがないからね、あときちんとひとを見ているというか」
 それに角田さんも同調する。
「それって単にお堅い女ってことじゃないですか」
 苦笑交じりに答える。これも酒の席での話題だから、本気でのっても引いてもいけない。
「まあ遊べるタイプじゃないのは事実」
「あ、なんか角田さんひどい」
「なに、お前遊ばれたいわけ」
「いや、お断りしたいです」
 わがままだなぁと笑われていると、そこで今まで笑いながら話を聞いていたボスが「野崎さんは」と口を開いた。
 
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