あなたのためのリップグロス
上がった息を整えるのに必死なあたしを、自分の口元を親指で拭う拓が見つめる。
その行為に、そんなにあたしとのキスが嫌だったのかと落ち込みそうになったけど、親指を軽く舐める動作にどきっとした。
「なんで……こんなグロスつけてんの?」
ああ、唇についたグロスを拭っていたのか。
まるで、所有の証みたいであたしの胸はドキドキしている。
「似合わない?」
「……似合わない」
自分でも似合わないと思っていても、拓に言われるとやっぱり心を深くえぐる。
「あはは、そうだよね」
あたしは涙を隠すために笑った。
逃げたいのに、足の間に割り込んでる拓の膝がそうさせてくれない。
あたしは俯いた。
もう、涙を我慢できない。
あたしの気持ちを無視して、涙は溢れ出てくる。
「……クソッ。そうじゃない」
すると、拓は自分の髪に手を入れると、くしゃくしゃにした。
「そうじゃなくて……メイクは似合ってる。ただ」
「ただ、なに? 別に無理して慰めなくていい」
そうされると、もっと惨めになる。
「あーもうっ! 無理してない! ただ、心配になんだよ」
あたしは、拓の顔を見つめた。