あなたのためのリップグロス
キョロキョロと彼が来るであろう方を向くと、あたしの視線は一点に吸い寄せられた。
自信を感じさせる歩き方と、歩く度に揺れる焦げ茶色の髪。
真っ直ぐ見つめてくる茶色の瞳。
そう、あたしの彼氏である佐野拓。
綺麗系な人じゃないけど、力強くてなにからも守ってくれそうな人。
そういう男性が好きな女性は、ほっとかないタイプ。
今も、肉食系女子な美人さんが拓に声をかけた。
こういう現場を目にすると、途端にあたしのなけなしの自信は木っ端微塵になくなって、家に帰りたくなる。
自分でも、なんで拓と付き合えているのか不思議でならない。
そんな事を考えていると――。
「お待たせ」
その声に、あたしは振り返ろうとした。