あなたのためのリップグロス


「来い!」


 そう怒った口調で言われ、さらに手首を掴まれて引っ張られると、泣き出したい気分になった。


 デートする気も失せるくらい、あたしにオシャレは似合わないんだ。


 賑わうデートスポットとは逆方向に連れていかれ、あたしの気分はどんどん重くなる。


「ねえ、デートしたくないなら、一人で帰れるから」


 これ以上、惨めな気分にさせないでほしい。


 あたしが言った言葉が気に入らなかったのか、拓は舌打ちをすると人通りの少ない路地に進路を変えた。


 すぐにclose中のレストランの壁にあたしを押し付ける。


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