遅咲きプリンセス。
昨日の課長といい、今日のこの彼といい、諸見里さんが持ってきたこのグロスって一体……。
諸見里さんには『鈴木ちゃんは、グロスを付けていること以外は至って普通にしていればいいの』と、帰り際に言われたのだけれど、彼に言われた通り、グロス以外は本当に普段通りにしているというのに、手の平を返したようなこの変わりようって、なんなのだろうか。
とんでもないものをモニタリングしているような気がして、なんだか怖いんですけど……。
「あれ? 君……確か昨日、ここで俺とぶつかりそうになった子だよね? いや、昨日は本当にごめんね。お詫びに食事でもどう?」
すると、彼もようやく、私が昨日の幽霊だと気づいたようで、どうしてそうなる!? 的な誘い文句を並べ、ぐいっと顔を近づけてきた。
近い近い、近い!
この近さ、ほぼ初対面の相手に対してする近さじゃないって!あなた、何考えてるの!
ここ廊下!しかも会社のっ!!
「どう?」
「あ、あの……こ、困ります……」
心の中では盛大にツッコミを入れられても、やはり現実ではそうもいかないので、さらに顔を近づけてきた彼から大きく一歩、後ずさりをすると、やっとのことで、丁重にお断りする。