遅咲きプリンセス。
それどころか、こんなに断られているのに何が楽しいのか、藤原さんは変な鼻歌を歌いながら私を椅子ごと自分のほうへ向けるのだ。
そうされてしまうと、彼との距離がぐっと近くなり、肩に置かれた手も離してくれる気配がないので、私は完全に捕まってしまった。
どうしよう、この人怖い……。
じわじわと這い上がってくる恐怖に身動きすらできずにいると、しかし藤原さんは、ぽぅっと私の唇に目を落として言う。
「鈴木さんったら、いきなり雰囲気が変わっちゃったんだもん。ほんとびっくりだよ。それにしても……鈴木さんの唇、すごく美味しそう」
「はいっ!?」
「キスしたい」
「ちょちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」
私は慌ててジタバタもがき始める。
藤原さんのキスしたい衝動なんて知るものか。
けれど、男性の力に到底適うはずもない私は、精一杯の抵抗も虚しく、ズルズルと藤原さんに引き寄せられ、あわやあわやの大惨事に……!
とーー。
「うおぉぉあっち!!」
突如、藤原さんは阿波踊りを始めた。
彼の声からも、何かに熱がっているのは明白だけれど、相当体が固いのだろう、いくら背中に腕を伸ばしても全く届かず、端正な顔立ちは、みるみるうちに悲痛なものへ変わっていく。