遅咲きプリンセス。
翌日。
「課長、ちょっと」
朝一番、課長のデスクにバンと手を付き、噛みつかんばかりの勢いでそう言った菅野君は、課長を従えて隣の応接室に入っていった。
諸見里さんのような大物のお客様には、事前に管理部のほうから許可をもらい、社長も使うという応接室を使わせてもらうのだけれど、普段はこちらに直接お客様を通し、商談やら世間話やら、一周して商談やらを行っている。
私も含めた社員全員が、菅野どうした!? と浮き立つ中、やがて聞こえてきたのは……。
「なんだと!? けしからんっ!!」
という怒りにまみれた課長の声で、すぐさま応接室を出て、そのまま企画室のドアも蹴破る勢いでどこかへ走り去っていき、私たちは、課長の様子に度肝を抜かれつつ、また、全力疾走する課長の姿も初めて見ることとなった。
それとは逆に、のんびりとした様子で応接室から出てきた菅野君は、私たちに向かって一言。
「さあさあ、仕事ですよ」
と。
本当にそれだけしか言わず、スタスタと自分のデスクに戻ると、仕事を始めてしまった。
結局、課長のあの慌てようから、大事なお得意様との間に何か急を要する事柄でもあったのだろう、と自分なりに片付けた私は、特に気にすることもなく自分の仕事と向き合った。