遅咲きプリンセス。
 
今日も菅野君と私は残業組で、彼は、彼自身が担当するクライアント様のマスカラについての作業についていて、私は、例のごとく、諸見里さん関係の化粧ポーチの案を詰めている。

社員がほぼ帰ったのを見計らってお手洗いで付けてきたシュシュを、さっそく気づいてもらえた上、褒めてももらえるなんて……。

勇気を出して付けてみてよかった。


「いつもそうしてればいいのに」

「そう?」

「うん、そっちのがいいな、俺は」

「そっか。じゃあ、明日から付けてくる」

「ん」


いや、実は、朝からシュシュを付けて出社する勇気はまだ持てずにいて、みんなが帰ったあとだったらいいかな、的な発想だったのだ。

菅野君とは5年、一緒に仕事をしてきた仲でもあるし、私の地味さにドン引きせず、入社した当時から普通に接してくれた唯一の人なので、彼ならきっと、変に気を使ったりせず、普通に感想を言ってくれると思ったけれど、そっか。

そっか、そっか、菅野君はこっちのほうがいいって思ってくれたんだ。

うん。


さっそく、明日からの身支度の一つに、シュシュで髪を結わえる、という作業が加わった。

そうして一人、緩む口元を隠していると。


「鈴木、ちょっと目つぶって」
 
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