遅咲きプリンセス。
いつもの、少し素っ気ない菅野君の声が耳に入り、私はとっさに、先ほど、シュシュで髪を結わえたついでに塗ってきたグロスを、服の袖で思いっきり拭き取ってしまった。
いや、だってこのグロス、男性を惑わす作用があることは先の2例で分かっていたし、できれば……本当にできればなのだけれど。
……その、菅野君には、グロスの作用ではなく、ちゃんと実力であか抜け、よしっと自信がついた自分でアタックしてみたいのだ。
けれど、そんな、あからさまに動揺した私に多少の冷ややかな視線を投げた菅野君は、デスクに無造作に置かれたマスカラを手に取ると。
「これを試し塗りさせてもらうだけだっつの。つーか、鈴木、お前、天ぷらの油くらい、ちゃんと拭き取ってから仕事しろよ、ってずーっと思ってた。そんなにハマってんの? 天ぷら」
「う……」
と。
なんともまあ、とてつもなく深い墓穴を掘っただけに終わってしまい、猛烈な恥ずかしさもまた、ジクジクと感じる羽目になった。
私、バカすぎる……。
「まあいいや、早く目つぶって」
「ああ、はいはい」
「じゃあ、塗るわ」
「どうぞどうぞ」
なんだかもう、投げやりな私である。