遅咲きプリンセス。
菅野君自身は、間違っても自分の睫毛にマスカラを塗るわけにはいかないのだろう。
こういう場面は、ほかの女性社員とやっているところを見ることも少なくないため、今日は私が、彼の実験台になったということらしい。
残っている女子は私だけだし。
そうして、投げやりな気分で目をつぶっても、やはり心臓はバクバクとあっちこっちに跳ね回っている中、結論づけた私だった。
「……あの、菅野君?」
「いや、なんつーか、なんだ、その……」
けれど、いくら待ってもマスカラが塗られる気配はなく、いい加減恥ずかしいので、目をつぶったまま菅野君に声をかけてみる。
すると菅野君は妙に口ごもってしまい、いくら女子力の欠片もない私でも、長く目をつぶっていると、いろいろアレなため薄目を開けた。
と、とたんに目に飛び込んできたのは心底困り果てた顔の彼で、その顔のまま、言われる。
「……眼鏡、取れよ」
「ああ!そっかそっか!」
「眼鏡を外すのは、なんかこう……な?」
「うん。だねー」
眼鏡を外さなきゃ、マスカラも塗れやしない。
またしても、バカすぎる私だった。
……そんなことがありつつ。
「ん、まあ、こんな感じだろ」
「うう、なんか、目が重い」