遅咲きプリンセス。
 
両の睫毛にたっぷりマスカラを塗られた私は、さっそくそう、率直な感想をもらした。

慣れたら案外、どうってことのないものなのかもしれないけれど、普段から薄化粧で、マスカラを塗るとへんてこりんな顔になることもずいぶん前に学習していたので、果たして菅野君が求めるような意見を出せるのかどうか、謎だ。

すると。


「鈴木の意見はこれといって求めてないし。塗った感じを確かめたかっただけだから、もう落としてきていいよ。サンキューな」

「……あ、そうなんだ」


と。

まるで私の気持ちが透けて見えたかのように、あっさり釘を刺されてしまい、菅野君はすぐにパソコンのメール画面を立ち上げ、クライアント様へだろう、文章を入力しはじめた。


なんだかやけに重たい目を何度かパチパチとしばたかせ、私も自分の仕事に戻る。

それにしても、お洒落って大変だ……。

せっかく菅野君が塗ってくれたのだから、そのままにしておこうと思い、お手洗いには立たなかったけれど、この日、ついぞ私は、マスカラの付け心地に慣れることはなかったのだから。


そんなことがあった翌日、またしても残業。


「どうしてくれる、心臓もたねえぞ」

「か、課長……!?」
 
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