遅咲きプリンセス。
「俺は節度ある人間のつもりだから、有村や、地方に飛ばされた藤原のように直接的な行動に出ることはしない。それに、諸見里さんのグロスの効果で自分がおかしくなっているのも自覚しているつもりだが……しかし、そそるな」
「はい?」
「鈴木の唇」
「はいっ!?」
と、ひどく真顔で、そう言われた。
何を考えているのかと思いきや、効果は分かっていても、しっかりと諸見里さんの策略にハマっているではありませんか、課長!
嫌だもう、このグロス……。
自覚済みなら、ぜひ我慢してください!
「だがまあ、ここ2日で鈴木もずいぶんとあか抜けたように見えるし、キスくらい、いいか」
「いややや、よよよ、よくないですよっ!」
「いいじゃないか、減るもんじゃなし」
「そんな……っ!!」
しかし、心の中の猛烈な直訴や、精一杯の拒否の甲斐もなく、課長は、まるで私の唇に吸い寄せられるように顔を近づけてきて、私の視界いっぱいには、課長のキス顔が広がった。
減るもんじゃなし、と課長は言ったけれど、なんというか、こう……精神的にすり減るのだ。
ここは、どうしても。
何がなんでも、キスだけは避けたい私だ。