遅咲きプリンセス。
けれど。
配属先の第二商品企画室に戻り、自分のデスクに腰かけたとたん、ドンと目の前に書類が山積みにされ、私の視界はそれに奪われた。
「鈴木、これの整理、頼むわ」
声のするほうに顔を向けると、書類を山積みにした張本人ーー菅野航平が、なんでそんなに不機嫌なの!? と、思わずこっちも不機嫌になってしまいそうなほどの見事すぎる仏頂面で、私のことをギロリと見下ろしていた。
彼とは同期で、入社してからこの方、リップグロスやマスカラ、チークやコンシーラーなどのコスメ商品を企画し、開発、販売する、という『第二商品企画室』でともに仕事をしている。
一緒に働きはじめて5年。
仕事上のつき合いの域は出ないのだけれど、それだけの間を一緒に働いていれば、彼の心理を察せないほどではなく、また、こういうときには、むやみやたらに仏頂面の理由を聞こうとしたり、頼まれた仕事に文句を言ってはいけないことくらい、私も経験で分かっている。
「今日中の仕事なの?」
「ああ」
「うん、分かった」
と、短い会話文を交わし、私はぐっと腕まくりをすると、書類の山に向き合った。
今日は早く帰れそうだったけれど、ほかではない菅野君の頼みとあれば、残業も辛くない。