遅咲きプリンセス。
 
菅野君を追うつもりではないにせよ、私も一心不乱に帰り支度を整え、最後に思いっきり音を立てて部署のドアを閉め、会社をあとにした。

課長なんて、もう知らない。

試作ポーチの行方だって知るものか、と思う。


「ふぇ……」


こみ上げてくるのは、ただただ、涙ばかりだ。

なんでこう、私はいつもこうなるんだろう。


「こんなもの……っ!!」


通りかかった公園のゴミ箱目掛けて、諸見里さんから頂いた例のグロスをシュートする。

ーーガコッ。ボテッ。

しかし、ゴミ箱の縁に当たったグロスは、なんとも悲しげな音を立てて地面に転がり、そのままコロコロと、若干、行方が楽しみになるくらいに本当にコロコロと転がり続け、やがて、履き古した私の靴のつま先に当たって止まった。


あんたも物好きね、と、仕方なしにグロスを拾い上げようと身を屈めたとたん、しかし、もしかしたら私、シュシュとか買っている場合じゃなかったのかもしれない、と唐突に思う。

靴はこれ一足きりで、俗に言うペタンコ靴なのだけれど、白かった靴は土やらホコリやらで薄汚れ、合皮もところどころハゲている。

こんな靴じゃ、菅野君には始めから……。
 
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