遅咲きプリンセス。
 
そんなある日の週末、土曜日。

桜のつぼみもほころぶ陽気の中、今日もいつものように街に出かけると、その途中で私は、思いもよらない人に出会うこととなった。


「あっ、すみませんっ」

「こっちこそ……って、鈴木!?」

「か、菅野君!?」


場所は、今日オープンしたばかりの『Amann』というコスメ専門店で、オープン記念セールなるものが開催されていた店内だった。

店内は大変込み合っていたので、お客さんとすれ違うこともままならず、何かの弾みで後ろからぐいっと押される形になった私は、ちょうどすれ違うところだったスーツ姿の男性に肩が当たってしまい、とっさに謝ったのだ。


しかし、ここ1ヶ月ほど、あいさつ以外は会話らしい会話もなかったというのに、こんなところで会ってしまうなんて……。

世間は狭い、というのは、どうやら本当らしい。


「今日はこの間のマスカラの発売日でさ……。オープンセレモニーに出たら帰るつもりだったんだけど、なんだか売れ行きが気になって」


どうやってこの微妙な空気が漂う場を取り繕おうかと、あわあわとしていると、菅野君はそう言い、店内にいた理由を説明してくれた。
 
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